マハリシの教えを学ぶ友への手紙(135

 

 

バヴァ・ローガ(存在という病)

 

 

完全な健康は病気を寄せつけないのかという質問を受けて、マハリシは、外が暗闇であっても家の中に光があれば光の中で生きることができる、ただし、蒔いた種は刈り取らねばならないので、その場合は病気は避けられないだろう、と答えたことがあります。

 

完全な健康という言葉を聞いて、どんな病気も患わない人生を期待する人もいるかもしれません。しかし、マハリシが言うように、生命の表面的なレベルにおいて病気を完全に回避するのは不可能です。どんな医学の知識や技術をもってしても、過去の行為に起因する病気を避けることはできません。肉体には必ず生死老病があります。肉体があるかぎり、快楽と苦痛の経験が尽きることはありません。病気は、私たちが経験する苦痛の一種です。過去の行為の結果として、健康という快楽を経験する時期もあれば、病気という苦痛を経験する時期もあります。一時的に健康を享受することはできるかもしれませんが、永久に病気から解放されるということはあり得ません。

 

病気という苦痛を経験したくない私たちは、当然のことながら健康を願います。ですが、病気を嫌悪し、健康に執着するならば、それもまた病的なことです。不可避の病気を恐れたり、抗ったり、悲嘆したりするならば、その心理状態は健全とは言えません。マハリシは、外の暗闇の影響を受けない内なる光について語り、肉体の健康よりも重要なものがあると示唆しています。肉体の健康は外的で表面的なものにすぎません。重要なのは外的な健康ではなく、内なる健康です。内なる健康があるならば、肉体の病気は大した問題ではなくなります。肉体の病気が私たちにとって大きな問題になるのは、内なる健康を欠いているからです。内なる健康を欠くならば、たとえ肉体的に健康であったとしても、それは完全な健康とは言えません。

 

ヴェーダの教えでは、肉体の病よりもっと深刻な病がある、と言われています。それは、バヴァ・ローガと呼ばれる病です。バヴァは「存在」、ローガは「病」です。バヴァ・ローガとは「存在という病」を意味します。別名、サンサーラ・ローガ(輪廻の病)とも言います。つまり、ヴェーダの教えは、輪廻する個人として存在すること、生死を繰り返すこと自体が病気である、と説いているのです。

 

私たちの人生は、バヴァ・ローガという根本的な病を土台にして成り立っています。このバヴァ・ローガは、肉体の病よりもずっと深刻です。たとえ慢性的な不治の病を患ったとしても、肉体の病がもたらす苦痛が経験されるのは、その一生の間だけです。しかし、バヴァ・ローガは、輪廻の束縛から解放されないかぎり、ずっと私たちを苦しませ続けます。

 

ほとんどの人がこの病を自覚していないかもしれませんが、私たちは皆、自分が思っているより不健康です。どれほど生理的に健康であったとしても、生命の根本において病んでいるのです。私たちは、自身の存在そのものが病的であるということを理解しなくてはなりません。このバヴァ・ローガを治療しないかぎり、完全な健康を得ることはできません。

 

病気を治すためには、その病気に適した治療が必要です。バヴァ・ローガの原因は自己(アートマン)に関する無知であり、自己に関する正しい認識が唯一の治療薬となります。マハリシは、アーユル・ヴェーダの言葉を借り、あらゆる病気の原因はプラギャーパラーダ(知性の誤り)であると言います。知性(プラギャ)の誤り(アパラーダ)です。自己でないものを自己と誤認すること、自身の本質を忘れること、それがバヴァ・ローガの原因です。本来、自己は不死であり、無病です。病気を患うのは肉体であって自己ではありません。しかし、知性が誤りを犯し、自身を肉体と同一視することで、私たちは自分が死すべき者であり、病気によって苦しむ者であると誤認します。

 

肉体には快楽と苦痛の経験がついてまわりますが、肉体を持たない自己には快楽や苦痛が触れることはありません(チャーンドーギャ・ウパニシャッド8.12.1)。蓮の葉が水滴をはじくように、肉体の病は自己に何の影響も及ぼしません。肉体の病は避けることはできないかもしれませんが、自己は決して病気を患いません。この真理を知る者は、病気で苦しむことがありません。外が暗闇であっても、内には光があります。外に何があろうと、自己は自己の至福に留まります。

 

サンスクリット語では健康のことをスヴァスタと言います。スヴァは「自己に」、スタは「確立している」という意味です。スヴァスタ(健康)とは、知性が自己に確立している状態に他なりません。真に健康であるならば、生命の表面においてどんな変化が起ころうとも、自己に確立している知性が揺らぐことはありません。知性が自己に確立すれば、病気の根本原因であるプラギャーパラーダは正されます。そのとき人は、自身が不生不死であり、どんな病からも解放されて自由であることを知るのです。

 

 

Jai Guru Dev

 

 

© Chihiro Kobayakawa 2021

 

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